鉄路さんちのあきれたある日

私は、鉄路ひびき 妻はさくら、長男はひかり 長女はのぞみ、次男はこだま

次女はあずさ

どっかで聞いたような名前だけど?

そうです、私の家は実は6人家族のどこにでもいる平凡な家族です、ですが変わっているのが名前が全部特急列車の名前です。

あと、家には猫が二匹いるのですが、それぞれ急行・準急と読んでいます。

私の次女あずさが

「お父さん猫って可愛い名前つけたかったの、たとえばミオとかさ」

「だってミルクとか上げるときに、急行、準急こっちおいでっていうんだもの、可愛くないよ」

とかなり不満顔です。

「それにさあ、ミオとかにゃん吉とかつけておけば、ミルク上げるときでも同じにニャーといってくるのに、なんか私見てると白猫の急行が早いのよね、茶のぶちの準急遅くてさ」

次男のこだまが

「そりゃ、無理だよ、急行のほうが早いの当たり前じゃねえか」

「準急こっちおいで可哀想」

といってあずさは自分の胸に小さな茶のぶちの猫を抱きかかえています。

「変わった家族、あんたの家、どうなってんの」

わかりました、では早速我が家を説明しましょう。

私の部屋、妻の部屋、それに4人の子供の部屋にそれぞれプレートがあって私はひびき1号車、妻はさくら2号車、子供たちはひかり3号車という風に特急列車と号車数が張ってあるのです。

朝、父がベッドから起き上がってマイクを取り上げて

「おはようございます、ただいま6時30分を過ぎております、列車はただいま品川を通過しましてあと10分ほどで東京終着駅に到着でございます。

どちらさまも起きてお折りのご支度をお願いします」

これがみなの部屋の天井のスピーカーから聞こえてくるのです。

ああ、こんな具合で、1階のテーブルは椅子が6人分あるのですが、その座るテーブルに1番線、2番線、3番線と書いてあります。

「お父さんの鉄道好きにも困っちゃうなあ、もうちょっと寝てたいんだけど」

長男ひかり君がぼやいています。

妻のさくらは、毎日少し遅れるようですがそうすると父はすぐ

「ああ、お客様に申し上げますが、2番線に到着する特急さくらは少々遅れて到着します、あと5分ほどお待ちください」

と私がテーブル脇のマイクを握っていうのです。

私は、このように朝の起きる方法を変えてからみないやいやながらもきちんとあまり遅れずに起きて朝ご飯を食べるようになってくれました。

ところが、妻が味噌汁を皆に注ぎながら

「あら、今日、日曜日じゃないの、あなた会社あると思ったのでしょう」

とクレームを私につけました。

そこで私はすぐに

「お客様に申し上げます、本日休日ですので7時50分・55分の電車は運休させて頂きます」

というのが妻があきれて

「いい加減にして、あなた、私の名前はさ、さくらだから特急列車、東京ー長崎間のあれでいいけど、あらいつのまにか覚えちゃったわね、子供たちの名前はなんなの、長男は大樹、長女は麻里、次女は

香織、次男は史郎とつけたかったのに」

そういわれると私はしばらく

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

です。

それで、みなの機嫌が悪くなっていけないので、

「どうだい、たまにはドライブにいこうじゃないか、ヨコハマから足を伸ばして鎌倉というのは」

妻の顔がぱっと明るく輝いて

「あなた変人と思っていたけど、たまにはドライブ素敵じゃない、行こう、行こう」

と子供のように手をたたいてはしゃいでいます。

さあ今日の朝の食事は、妻の手作り野菜サンドイッチに、とうもろこしスープ

野菜サラダに、マンゴージュース、まずまずのカロリー充分、ダイエット食です。

「さ、そろそろ車を出そうかなあ」

そういって私はドアーを開けてガレージのワゴン車に向かいます。

次男も着替えが済んで私の側に来ました。

車の点検が大切です、事故を起こさないためにも

「バンパーよし、バックミラー位置よし、右タイヤ一番タイヤ圧力良し、左タイヤ圧力良し」

と指差歓呼

次男が私を見て

「また、お父さんの癖がはじまった」

と半ばあきれ顔です。

間もなく妻さくら 長男ひかり、長女のぞみ 次女あざさが皆思い思いの格好をして出てきました。妻は、子供のようにはしゃぎながら

「うれしい、久しぶりの皆揃ってのドライブで」

手にはバスケットを持っているようです。

私は、リモコンでドアが開くように操作をすると皆、車に乗り込みます。

ワゴン車なので椅子の伸縮を調整し乗車は終わります。

「よし、皆乗ったなあ、ところでお前たちは何選ぶ」

妻がびっくりして江ノ島でしょう?」

と聞くのです。

「いや、そうでなくて、特急。快速。各駅停車」

「はっ、なんて」

妻はあっけにとられます。

「いや、特急は江ノ島までノンストップ」

「いやだ、ヨコハマに寄るって行ったでしょう」

「わかった、ほかによりたくないか」

妻は

「じゃ、各駅停車は」

「ああ、これね、近くの公園で休んで、駅前のMACで、それからトイレの前で、ええと」

妻はびっくりしています

「ヨコハマだけ寄って、久しぶりに中華街に寄っていこうよ」

「ねえ、ちょっと聞くけど普通だとドレぐらい掛かるの」

「まあ、江ノ島までだと6時間ぐらいかなあ」

妻は

「いい加減にしてよ、それじゃついたときはもう午後過ぎじゃないの」

私は、

「じゃ、急行だなあ、わかった」

と運転台の右側のスイッチを押すと、駅の発車メロデーが車の天井の明かりが点滅しながら、奏でています。

以下続く

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けだるい夏の日 新風舎文庫出版掲載

この物語はノンフィクションであり、ここに登場する名前・会社名は実在しません。

鉄道ファンの幸一は、Tシャツと短パン姿で湿気が身体にまつわりつくようなけだるい夏のお昼前、湘南電鉄に乗っていた。湘南電鉄は湘南地方の鎌倉―藤沢を海岸沿いに結ぶ電鉄で海と山の変化ある光景と家の軒並みをすれすれに走る全長10.0キロメートルの小さな鉄道は自動車の普及により、一時は廃止のうわさもあったが、近年沿線の宅地開発も進み、通勤客の増加と観光地が見直されて電車の増発とともに活気を帯びていた。レトロさに最近は非常に鉄道ファンも増えて人気のある鉄道に変わった。

2006_0715new11030076_4  幸一も35ミリカメラを持って湘電の姿を気に入ったところで下車しては写真を撮るのを楽しみにしていた。
 鎌倉駅を出て、横須賀線の高架線に平行して走り踏切を抜けて右折すると目の前に民家が迫り、和田塚、長谷までは軒すれすれに走るのだった。
 幸一の乗った電車は、近年ここにも車両の冷房化が進んでいる中で、300系と言ってかっては東急玉川線を走った楕円形前面4つ窓がユニークな、旧式の電車で、天井の扇風機がけだるい湿った空気をかき回していた。

 

幸一は、極楽寺で降りて電車を撮ることにした。
 ここは、湘南電鉄の車庫があり、切り通しのトンネルをホームに向けて走ってくる光景が、鉄道ファンもがあこがれる撮影場所として知られていたからである。
 坂を少し上りトンネルを見下ろす場所でカメラを構えて電車がトンネルから出てくるところを狙ってシャッターを押して撮影した。
まずまずだなあと幸一は満足して坂を下って再び極楽寺駅ホームに向かって歩く。

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2006_0715new11030070_3 再び車窓の人となって七里ガ浜駅を過ぎると切り通しは終わり左にカーブすると車窓一杯の夏の海と海の香りが車内一杯に広がった。幸一はこの瞬間が好きだった。
 カタタン・カタタタンとのんびりした轍の音をさせて海岸沿いの道路に沿って走った。
 鎌倉高校前から腰越を過ぎるとここから道路の路面を時速15キロの超低速度でゆっくりと江ノ島に向かって左右の平行する自動車を気にしながら江ノ島に向けて走るのだった。

 

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電車が江ノ島に着いて上り電車の列車交換を待っていた。しばらくして2分遅れて上り電車がやってきた。
 着いた電車は、なんともう引退したはずの単・コロ10系が2両編成だった。その時、車内アナウンスで構内の信号機の故障でしばらく電車が停車するとの放送があった。
「おや、単・コロ10系が、なんで?」
 幸一は不思議に思った。
 自然に幸一は座席を離れて向かい側に止まっている単・コロに向かって足が進んだ。ホームの時計は10時20分を過ぎていた。

2006_0715new11030063_2  鉄道がなによりも好きだったので向かい側ホームに止まっている10型車両の車体をなでながら、木製ドアに乗り込んだとたん、手を掛けて乗ると軽いめまいを感じた。ふわっとして景色がぼけていく。幸一は、どうしてと思いながら運転台の柱に捕まって倒れそうな身体を支えた。
 もやもやとかすんだ景色がまた元へ戻ると、
「あっ」
と心の中で驚いた。

 驚いて声も出なかった。ティーシャツにジーンズの短パンが白いワイシャツに黒い学生ズボン姿に戻っていたのである。
「わっ、高校生、何で?」
 幸一は低い声でつぶやいた。幸一はさっぱりわけがわからず左のほほを思い切ってつねった。
「あいたた」
 夢ではないな、あたりを見回すと車内の広告にS社の動物ロボットの広告とノートPCの発売表示が示されていた。週刊誌の広告があり、三宅島雄山の噴火の惨状と書かれていた。幸一はそれを見て三宅島雄山・三宅島雄山・・・・と何回もつぶやいてはっと思った。

 僕は高校生、それも10年前に戻ったと思った。幸一は車内を歩き、2両目の車両に移った。前に進むとそこにセーラー服を着てテニスのラケットを持った涼子が座席に座って気持ち良さそうに眠っていたのを発見した。
 幸一は、思わず近づいて
「涼子さん」
と声を掛けた。

「あっ、幸一さん、ここってどこ?」
 涼子は目を覚ましふと窓の後ろを振り返った。
「江ノ島ね、幸一さんとは学校も違うし、久しぶりだし、どう江ノ島に行って見ない?」
「うん、降りようか」
と言って二人は電車を降りた。
 涼子がテニスのラケットを持っていたので、
「部活は?」
「ああ、今日練習だったんだけどさ、キャプテンが風邪で休んで、それで中止っていうわけ。」
「幸一さんは?」
「あっ、僕の演劇部?」
 幸一は高校の演劇部に所属していた。

「この間、シェクスピアのハムレットやったんだけど、今度はオリジナル作品作ろうということで」
「がんばってねえ、あたし、応援するから」
「ありがとう」
 そんな会話をお互い交わしながら江ノ島駅を降りた二人は海岸に向かって歩いた。
「ちょっと待ってて」
 涼子にそういって右側の店の前でソフト・クリームを二つとハンバーガを二つ幸一は買った。
「どうもありがとう」
 涼子と幸一はのどの渇きをソフトクリームでいやしながらゆっくり歩いた。

 その時、幸一のかばんの中のケータイが鳴った。母からだった。
「幸一、今どこに居るの」
「ああ、今江ノ島、涼子さんに会って」
「ああ、涼子さんね」
と母のいとこにあたる涼子ならば安心だと思った。
 江ノ島海岸に出ると、気が早い海水浴客が数人いる。江ノ島に通じる弁天橋の下を歩いて砂浜にいつしか立っていた。
海風が二人の頬をなでた。長い栗色の髪が涼子の顔に掛かった。涼子はそれを打ち払うかのように右手で後ろに持っていった。
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2006_0715new11030052_2 幸一は、
「涼子さんて可愛いなあ」
とひそかに思った。
 幸一は小石を拾って
「見てて」
と涼子に言いながら身体を少し曲げて右手で思い切って波に向かって投げた。小石はポン・ポンと弾みながら遠くに飛んで行った。
「面白~い」
 涼子も小石を拾って右手で水平に飛んで行くように投げた。幸一は涼子に気づかれないように秘かに写真を撮った。

 小石は小波をけって飛んで行った。二人は顔を見合わせて笑った。
 それから二人は江ノ島をつなぐ弁天橋を渡って歩いた。
 沖合いを白いヨットが2隻、波をけって進んでいた。
 橋を渡り終えて、二人は左の道路を歩いて防波堤の方に向かって歩いた。
 海からの微風が二人の顔をなでた。涼子は顔に掛かった髪を手で振り払った。
 防波堤には、釣り糸をたれて海釣りを楽しんでいる一人の老人がいた。
 涼子は側に行って老人に尋ねた。
「おじさん、釣れますか?」
 老人は、
「今朝からまだ1匹しか釣れていないよ」
 そう云ってボックスを開けて魚を見せてくれた。
「昔は防波堤もなくてこの辺なにもなくて、魚もよう釣れたんだけど」
 老人はそういって麦藁帽の下の日焼けした顔で笑った。

「幸一さんは、釣りするの?」
 涼子に突然尋ねられて幸一は
「やるけどさ、あまり好きじゃないんだ」と答えた。
「昔、父の会社の釣り愛好会があって、小さいとき近くの沼に行って、いきなり雷魚が二匹釣れて恐くなって。それが僕の顔をにらんでいるようで」
と話すと
「面白~い」
と涼子は笑った。
「それ以来釣りに行かなくなって」
と幸一は言った。

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 しばらく二人は休んで元来た道を戻り、海産物やみやげ物店の並ぶ細い江ノ島参堂の道を登った。
 潮の香を含んださざえを焼いてる香りが漂ってくる。
「おいしそうな匂い」
涼子は言った。
「食べる?」
 幸一はそういって店の中の奥の椅子に腰掛けた。
 涼子は運んできたサザエのつぼ焼きをおいしそうに食べながら、
「食べないの?幸一さん」と聞いた。
「僕はどうも海の香りの強いものは」
と言ってコーラを飲んだ。

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店を出て、江ノ島神社に通じる赤い鳥居を左に上ると江ノ島エスカーが見えた。
「以前はここから長い階段で頂上近くまで歩いて20分近くかかったけど、今はこの江ノ島エスカーで楽に5分くらいで行けるようになったんだ。」
「ずいぶん便利になったのねえ」
 二人は、エスカーに乗り換えては歩いていくと右側に江ノ島植物園と展望塔があった。
「ここ入って見ようか」
「うん」
 幸一と涼子は江ノ島植物園の中に入った。

 公園の小道は熱帯植物の木々が覆っていて海から吹いてくる風がけだるいような暑さを和らげた。
「あたし、江ノ島とか、いつでも来れると思ったりしてえ、ここは入ったことなかった」
「僕もなんだよ、いつも素通りしてこの先の階段下りて岩屋の洞窟には行くんだけど」
 二人は、園内をゆっくり回った。
「この植物園には100年に一度しか咲かないアオノリュウゼツランとか、5000本の珍しい亜熱帯植物があるんだよ」
「いま、咲いているなら見た~い。まあ、100年に1回なの?。らんとかは夏咲くんでしょう」
 二人はアオノリュウゼツランの花を見にいったが、葉っぱだけだけだった。

「やっぱ、無理ね」
「あっ、リスがいる。見て、見て」
 涼子がびっくりした声で幸一に言った。
「本当だ、可愛いなあ」
リスは木の枝にいて両手で一生懸命木の実を食べていた。
 「あっ可愛いい~、あのりす幸一さんに似てるう」
 「はっ、僕ってあんな顔?」
 二人はリスをしばらく見つめていた。

 小動物のいる小さな動物園には子供たちが喜んでいた。しばらく歩くと目の前に展望台が二人を見下ろすかのように行くてをさえぎるように屹立していた。
「ねえ、あの上に上ろうよ、きっと眺めがいいと思うよ」
 幸一は展望等を見上げるようにぽつんと言った。
「そうねえ、だってここでさえも高いんだから、きっといろんなとこが」
 二人は、屋上に続く長い階段を登りはじめた。展望塔をさえぎるものはなく、階段の隙間から海風が吹き上げてきてここちよかった。

 屋上は江ノ島の最先端で、二人はそろって
「すご~い」
と言った。360度の眺望は、少し霞んでいたが箱根の山々から伊豆・そして三浦半島、葉山、鎌倉と、目を東に転ずると遠く横浜まで見えて横浜スランドマークタワーが霞んで見えた。
「晴れていると、富士山とか大島が見えるそうだよ」
、幸一は、欄干にもたれている涼子に言った。
「う~んん、富士山見えなくてもいいわ。幸一さんと久しぶりに会えただけで」涼子は、振り返えり首を横に振って言った。
 幸一は涼子の仕草を見て
「涼子さんって可愛いなあ」
と心の中で思った。

 二人は展望塔の欄干にもたれてしばらくうっとりとして景観を楽しんだ。
 展望塔を降りて、植物園のベンチで二人は休んだ。
「ねえ、せっかく来たんだから、写真撮ってもらおうよ」
と涼子はかばんの中からインスタントのカメラを取り出した。
「ああ、ポラロイドカメラだ、すご~いっ」
幸一はちょうどとおりかかった若者に声を掛けた。
「はい、チーズ」
二人はVの字を大きく手で示し写真を撮ってもらった。

涼子は、若者から写真を撮った後、カメラを受け取った。
涼子がカメラのボタンを押すと、やがて舌をペロッと出すかのようにゆっくりと感光紙が出てきて次第にい薄い色からカラー写真に変わって行く。
「これ、私のでないの、父から部活の皆と写真撮るのといったら貸してくれたの」
とちょっと得意げに、にやりとした。
「はい、これ幸一さんの」
涼子の手が伸びてきて幸一はそれを受け取った。
「どうもありがとう、涼子さん」

「ハンバーガーだけど」
 幸一はそういってかばんの中に入っているハンバーガーの入っている袋から取り出して涼子に差し出した。

「あれ、幸一さん、いつ買ったの?」
「さっき、ソフトクリーム買ったとき、一緒に」
「幸一さんてずいぶん気が効くのねえ」
 涼子はそう云ってうれしそうにハンバーガーを被りついた。幸一は走って行って、氷で冷やした缶コーラを手にとってほほにあて冷たそうな缶を選んで買って急いで戻り、
「はい、飲み物」
と言って涼子に差し出した。

 二人は、右手にハンバーガー、左手に缶コーラを持って話した。
「あと、どこ行こう」
「そうねえ、岩屋洞窟もあるけど、遠いし、駅に近い江ノ島水族館ってどう」
「そうだなあ、案外魚見るのもいいね」

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二人は元来た道を再びエスカーに乗って下り江ノ島を後にした。弁天橋を渡ると喧騒な音と排気ガスのにおいや湿った風が身体の回りをまつわいつきけだるさをさらに増して自動車が行き来していて江ノ島の静けさがうそのようだった。
「ちょっと待ってて」
幸一はそういって涼子を待たせてマクドナルドの店に入り、マックドポテトを注文して涼子の元に駆けながら戻ってきた。

少し歩いて江ノ島水族館の中に入ると冷気が二人を包んだ。
「わあ、涼し~いっ」
 けだるい暑さから開放されて巨大水槽のある場所に駆けて行った。
「ここは、相模の海を切り取ったような大水槽で8千匹のいわしが泳いでいるんだよ」
「すご~い、いろいろな魚が居るみたいな」
涼子は驚いて大きな瞳で上を見つめていた。
「あまり高くって首が痛くなる」
と言った。

 水族館とマリンランドを結ぶ約40メートルの地下通路は壁面には発光アートアクア・パラダイスがあってラッコ・いるか・ペンギン・ザトウクジラ・クラゲ・ウミガメなど、いろいろな海の生き物が黒く浮き上がっていた。
二人は、壁画を眺めながら左右、天井の円形水槽を泳ぐえいやさめにも目を配って歩いた。
「海の中に居るみた~い」
 涼子は立ち止まってそう言った。
「あの中で泳いで見たい?」
「まさか、えいとかさめが居たら恐いよ」

「この水族館に来たからには・・・・・・」
幸一は、涼子にいるかショーを見せてやりたいと思った。
「そうそういるかショー見なきゃ」
と二人はショー会場に急いだ。幸一は自販機で缶入りドリンクを買った。
「ちょうど良かった、3時30分の最終に間に合ったよ」
 二人は扇状のスタジアムの席に腰掛けた。
「食べる」
と幸一は、さっき買ってきたポテトフライの箱と缶コーヒーを涼子に差し出した。
二人は、箱に入ったポテトフライをr突っつきながら仲良く食べた。

 水族館の飼育スタッフが出てきて
「それでは、今日最後のハッピー・テイルショーを行います」
とアナウンスがあり円形の水槽の中のいるかに話しかける。
 子供と大人たちが水槽の中のいるかと握手をしたり触ったりしていた。
いるかは水槽をゆうゆうと泳いでいたが、突然空中を舞うかのように見事にフライングした。水しぶきが飛び散って水槽の前の観客に掛かった。
 二人は大勢の観衆に混じって拍手をした。

 涼子は、ふとわれに帰って、腕時計を見て、
「もう4時だわ、あたし、帰らないと」
と言った。その時、涼子のかばんの中のケータイが鳴った。ケータイを取り出すと母からだった。
「どうしたの、涼子」、
「お母さん、幸一さんに会って」
「ああそう、よかったね」、
と母は安心したようだった。

「楽しかった幸一さん。部活が休みになってよかった」
「僕も涼子さんと一緒でよかった。・・・・ぼ、僕は・・・涼子さんが好きだよ。・・・・・・」
 幸一はそういい掛けながら、
「でも・・・・涼子さんが・・・うちの母の従姉妹だなんて」
 涼子は、
「幸一さんからあたしを好きだって言われるのって悪い気持ちはしないし・・・・・・・」
と答えた。
「あのさ・・・・あたしがあなたのお母さんと従姉妹だからいいと思う・・・・だっていつまでも・・・・今の気持ちで、また・・・・・・逢えるじゃない」
と涼子は幸一の顔を見て言った。

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二人は江ノ島駅に向かって歩いた。
 江ノ島駅に着き、涼子を単・コロ10型レトロ電車に送った。
「幸一さん、またねえ」
 涼子の声を背中で聞きながら、振り返ってガラス窓越しの涼子に手を振って2番線の停車中の電車に向かって歩いた。電車のドアに手をかけて足を踏み入れたとたん、幸一はまためまいを感じ耳がつーんとしてきた。周囲の景色が次第に霞み、ふらふらとした身体を握り手でしっかり掴んだ。どうしたんだろう、2回もめまいがして、不安な気持ちが襲うと同時にぼんやりしていた視野がはっきりしてきた。遠くに聞こえていた音もはっきりと戻った。

 ああ良かった。気がつくと元のTシャツに短パン姿に戻っていた。
 僕は夢を見ていたのだろうか、幸一はそう思った。
「お待たせいたしました。ただいま信号機が直りましたのでまもなく藤沢行きが発車いたします」
 電車は何事もないかのように5分遅れでけだるい夏の午後の日を藤沢に向けて走るのだった。

 カメラを収めたバッグを開けると、そこには涼子と一緒に撮ったセピア色に変色した写真があった。
「夢じゃなかったんだ、写真がここに」
 そう思って幸一は写真をしみじみといつまでも見つめているのだった。

                              (完)
著作権はすべて管理人(ヒロクン)に帰存します。この小説の文章の転用・引用は禁止します

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鉄道小説「山手線」未完

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東京の大動脈、一周45分の環状線「山手線」始発電車から終電車まで朝・昼・夜いろいろな人が利用している。そこに色々な人間模様が見えてくる。「山手線」は、運転士の歓呼・車掌・女性テープの案内・駅の案内などを忠実で究極の真面目な鉄道を再現させたい。一方それとは対照的に朝・昼・夜と時間でどんどん変化していく自由な乗客の回顧・独り言・複数以上の会話、それは断片的なものであるかも知れないがともかく「山手線」は今日も色々な人々を乗せて走る。
ここに出てくる山手線は実在しますが物語はドキュメントであり登場人物は実在しません。


冬の明け方、吐く息が白いそんな寒さを運転士の田崎祐司は大崎電車区のまだ眠りについている電車に今日の乗務をするためE231-090の点検に掛かった。
「皆E231に変わったなあ、僕がかわいがっていた205ー340は元気に働いているだろうか」
田崎が15年も運転していた205系も取り替え時期が来てかなりの車輌が仙石線に配属換えされたのだった。E231系は205系の次世代電車と云われているが山手線に配属されてまだ3年目だった。
低い声でつぶやきながら電車の足回り下を覗いた。1輌ずつ見回りながら11輌最終車輌にきたとき車掌の森下光男にあった。

「おっご苦労さま」
「田崎先輩よろしくお願いします」
「こちらこそ、今朝はやけに寒いが頑張っていこう」
田崎は最近白髪が目立つ髪の毛を気にしながら帽子を脱いでかぶり直し、あご紐をきりりとしめた。森下が乗務員室のドアの取っ手に手を掛けて鍵を回して戸を開けて田崎もそれに続いた。

森下がパンタグラフのスイッチを押してあげるとモーター音周りだし室内灯が点灯し張り詰めたような冷たい空気が流れる車内を歩いて11両目を歩き先頭車車輌E231ー030に戻り、乗務員室のドアを鍵で開けて運転士室に入った。
これから眠っている車輌に息を吹き込んで電車を走らせると思うと一瞬緊張するのだった。マスコンのスイッチを入れブレーキ、加速・減速がスムースに動くかをテストした。圧力計に次いでパンタグラフの昇降テストのあと、さらにATC作動テストと相次いで行った。

一方、車掌の森下は最後部車E231ー053の乗務員室の鍵を開けて車内に入り、ドア開閉のテストを行った。次いで案内放送のテープのスイッチを入れた。女性の声で「次は池袋です。埼京線・湘南新宿ライン・西武線、東武線、東京メトロ丸の内腺・有楽町線はお乗り換え・・・・・」
森下はスイッチを切った。
「大崎なのになぜ池袋」
そう思いながら駅名案内を品川になるように調節した。
すでに大崎駅では始発電車に備えて通り抜けの通路のシャッターを開けて、切符の自動販売機も作動するようにスイッチを入れられていた。

駅のホームでは、
「おはようございます、本日もJRをご利用くださいましてありがとうございます。間もなく始発電内周り、品川・新橋・東京・秋葉原・上野方面行きが2番線に入って参ります。危ないですから黄色い線までお下がりください」
時計は4時20分を過ぎていた。さすがにまだ電車を利用する乗客は少なく肩にかごを掛けた築地市場のせりに出かけるジャンパー姿の仲買人、職人が目立った。

その中にすし善の矢田純蔵もいた。始発電車はライトをつけてしずしずと大崎車輌区側から2番線に入線してきた。
「大崎、大崎です。2番線の電車は始発電車、4時29分発品川・新橋・東京・秋葉原・上野方面行きです」、
乗客が電車に乗り込んだ。冬の車内は暖房が入れられたとはいえ寒々としていた。矢田も座席に腰掛けたものの座席の下のパネルヒーターに足を寄せて暖を取ろうとしていた。

「おはようございます。本日もJR山手線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は外周り品川・新橋・東京・秋葉原・上野方面です。なお運転士は大崎車輌区の田崎祐司・車掌は森下光男です」
とテープを使わないで乗客に放送した。ミュージックサイレンが鳴り、駅のホームの女性の案内放送が
「2番線のドアが閉まります」
と優しい声で案内した。
田崎は前方をじっと見つめていた。まだ、闇に包まれて3灯式信号機の表示が赤から注意、そして緑に変わった。
「大崎定発」
「信号よーし」
「出発進行」
「場内制限15」

電車は構内を過ぎると
「制限解除、速度60」
田崎は次々と喚呼してコントロールレバーをゆっくり手前に引いた。電車は早くなりVVVS方式の独特の音をさせながら走行した。そうそう、これも放送しなければ、車掌の森下はマイクを握ったまま
「お客様にお願いします。車内でのケータイ電話のご使用は優先席近くでは電源を切ってご使用はご遠慮ください。なおそのほかの車内でのご使用はマナーモードでご使用くださいますよう、みなさまのご協力お願いいたします」
森下はそう言い終えるとマイクのスイッチを切った

座席に腰掛けて居るすし職人は昨日のことを想いだして居た。というのは息子の大輝が勤めて居た会社を辞めて家業の寿司屋を継ぐというのだった。矢田は息子が自分の店のあとを継ぐと云ったことを喜んで居たのだった。中学を出て直ぐに寿司やに奉公して辛い寿司職人の修行をして35歳の時やっと独立してお客にも恵まれて寿司屋のほかに海鮮料理レストランを別に持って居た。

最初は息子の云うことを信じて居た。息子にしっかりした寿司職人になってほしっかったし、あとを継ぐと云うからには自分がさんざん苦労して覚えた技を息子大輝には苦労しないで覚えてほしいと大変な力の入れようだった。寿司のネタは築地市場に朝早く起きて出かけて誰よりも新鮮な材料を仕込んでくるのが一番大切だと考えていた。それで息子の真一を最初の朝に起こして築地の市場に連れて行った。

「真一、今から一緒に寿司ネタ仕入れに築地にいくからおまえも起きてついて来い」
と寝ている真一に声を掛けた。真一は、
「お父さん、今何時」
と云いながら隅の時計を見た。
「わっ、俺堪忍してよ、せっかく爆睡してんのに」
「何をいってんだ、真一今日から寿司やになるんだろう、さあ起きて起きて」
「わかったよ、起きるよ」
真一は不承不承起きて顔を洗い、歯を磨きブルゾンを羽織って父について行った。しかし、それ一回だった。母の桃子は、
「真一が会社を辞めてまで跡を継ぐと行っただけでも、なかなかお父さんの職を継ぐなんて云う子はいないよ、あまり厳しくすると真一が逃げるわよ」
と同情して云うのだった。
「まあ、しょうがないか」
矢田はそれ以上何も言わず寿司ネタの仕入れはしばらく一人ですることにした。

「次は品川です、東海道線・総武横須賀線・京浜東北線に京浜急行線それぞれ次の品川でお乗り換えです・・・Soon will be maked berief stoped Shinagawa toukaidou Line・・・・」田崎は
「制限60」
「制限50」
「品川停車」
そういってマスコンレバーを手前に少しずつ戻した。
電車は緩やかにスピードを落とし品川駅1番線ホームに滑り込んだ。

品川駅では今日一番の始発電車に乗り込もうとしていた人たちが待機していた。
島本秀夫もその一人だった。島本は昨日、遠藤部長が札幌支店長に転勤するために開発二課全員が出席して送別会をホテルで行ったあと、同僚4人と酒場で飲んで、つい山手線の最終電車に乗り遅れたのだった。やむを得ず駅前のビジネスホテルに宿泊し、そのまま会社に行こうと思ったのだが、いったん巣鴨の自分の家に帰って朝食たべてきちんと身支度をそろえて丸の内の会社に出勤しようと考えを変えた。妻にもケータイで
「今夜は遠藤部長の栄転の送別会があって、多分遅くなるから先に寝ていて、じゃあ」
とホテルの会場で話して以来交信しなかった。身を突き刺すような張り詰めた空気で遠藤は酔いが醒めて
「家ではさぞ心配してるだろうな」
と云った。時計を見ると4時25分だった。遠藤は鞄の中からケーターを取りだして電源を入れて局番を入れたが
「まだ、4時30分過ぎだし反って寝てる妻を早朝から起こしては逆効果だ」
そう考えながらケータイを元の鞄にしまった。電車は始発電車なのでほかのJRや私鉄の京浜急行の連絡待ちのせいか品川駅に止まっていた。そのとき地下の階段から人の塊が車内になだれ込んできた。田崎はじっと前方を見つめていた。前方彼方に一筋の光が見えたと思ったらヘッドライトを二基つけたE231の内回り電車だった。

「お待たせしました。1番線のドアが閉まります、次は田町です」
女性の駅アナウンスに促されるように
「品川4分延発」
「制限30」
「出発進行」
マスコンのレバーを手前に引くと再び電車が動き始めた。制限速度30キロを維持しながら構内を離れると
「制限解除」
「速度90」
田崎は思いきってマスコンの位置を5まで引いた。時速90キロ、山手線内で唯一の高速運転が出来る区間だった。

右側には広い品川車輌区があって、113系に変わって東海道線のE231系をはじめ 211系、ダブルデッカー車のE215系をはじめ遠くには九州・山陰の寝台特急がまだ構内の照明灯に照らされて眠りについていた。
品川から田町までのこの区間は山手線でも約2キロ以上の最長距離区間であるが京浜東北・山手・東海道腺に新幹線と列車が頻繁に走ってくるめまぐるしい区間ではあるがまだ午前5時前ではほとんどその列車の姿も見えなかった。
「あのラッシュアワーのすさまじさが嘘のように静かだ」
田崎はそう思った。

「間もなく田町です。都営三田線・浅草線・都営大江戸線、はお乗り換えです。この電車は次は浜松町に止まります」
5両目に乗っていた経営コンサルタントの石塚健一郎は、眠い目をこすりながら「次は浜松町だなあ、北海道の札幌日帰り出張はきついよな」
書類を鞄から出してページをめくりながら、
「何とかしてこの案で了解してもらわないと」
低い声でつぶやいた。彼は同僚の増本と空港で逢って、羽田発6時全日空102便札幌経由で千歳空港に向かうことになっていた。

「田町停車」
田崎はマスコンレバーを停車にブレーキを掛けながら徐々に減速させて停車位置に寸分の狂いもなく停車させた。
「田町です。ご乗車ありがとうございます」
「2番線の電車のドアが閉まります」
電車のドアが閉まると田崎は
「田町3分延発」
「制限60」
と歓呼してマスコンを手前に引いて電車は次第にスピードを増した。
「間もなく浜松町です。東京モノレール、羽田空港方面は次の浜松町でお乗り換えです」
「浜松町です。ご乗車ありがとうございます」
そのアナウンスを聞いてコンサルタントの石塚は鞄を右手に持ってドアが開くのを待ってホームの外に出て行った。田崎は運転表の時刻と実際の時間を時計を見ながら
「やれやれまだ2分延発か、遅れを戻すのは大変なんだよな」
低い声で言った。

「浜松町2分延発」
「出発進行」
「制限60」
「信号よ~し」
指査喚呼を行いながら電車は新橋に向かって走行した。
「間もなく新橋です。東京メトロ銀座線、都営地下鉄線、ゆりかもめ線においでの方はお乗り換えです。新橋の次は有楽町です・・・・・」 
新橋汐留口の高層ビルもまだ眠りについていた。

「おっと、新橋か」
座席で居眠りしていた寿司職人の矢田は眠そうな目をこすりながら、その放送に促されて「今日はいい寿司ねたが手に入るぞう」と心の中で思いながら立ち上がってドアの開くのを待ってホームに降りた。
「新橋です。ご乗車ありがとうございます」

さすがに新橋で降りる人は多かった。今まで車内のあちらこちらにぽつんと腰掛けて居た人が新たに乗ってきた人で座席がつながって人がこしかけるようになった
左の窓から見る霞ヶ関までのビルも暗く、ただ街路灯と自動車のテールライトだけが延々と続いていた。
「1番線のドアが閉まります。次は有楽町に止まります」
ドアがプッシュと言って閉まった。
ピンポン・ピンポン・ピンポンと3点のチャイムが鳴ると
田崎は
「新橋2分延発」
「出発進行」
「制限60」
マスコンを手前に引くとたちまち60キロになったが前方に有楽町駅がもう見えてき
た。

わずか1,1キロの区間なのでマスコンを元の位置に戻し直ぐにブレーキを掛けて減速していくらかカーブした有楽町駅に入らねばならずベテラン運転手でも難しいといえる区間なのだ。
山手線は全32駅ありどこの区間も駅間距離が短く、一駅平均1,08キロと中央線31駅平均1,8キロ、総武線21駅、2,8キロに比べても短かった。
「有楽町ご乗車ありがとうございました」
田崎はマスコンをニュートラルの位置に戻し外を眺めた。

かってのデートの場所であり、有楽町で会いましょうといった有楽町広場は大きな変貌を遂げたなと思った。
そごう百貨店が撤退し、そのあとに大型家電店が進出していた。
ここから丸の内に掛けてはオフィスビルが同じ高さで立っていたが再開発と土地の有効活用で最近は一部高層ビルに模様換えしようとしていた。
ドアが閉まり、田崎がマスコンを手前に引くと電車は加速しすぐに東京駅に到着するのだった。

東京駅ではそこでは、昨日東海道新幹線の関ヶ原付近で吹雪となり、相次いで列車が立ち往生し最終新大阪発ひかり号が夜中の12時30分頃到着し、列車ホテルに泊まった乗客が今日最初の始発電車に乗り込もうとする人が多かった。
時計は4時44分を指していてまだ闇のとばりに包まれていたが209系の京浜東北線が右側のホームに滑り込んできた。
「間もなく4番線に山手外回り、秋葉原・上野・田端・池袋方面 行きが到着します。危険ですから黄色い線までお下がりください」

中央線・京浜東北線・山手線・東海道線・東海道・東北・新潟・長野新幹線に地下には総武・横須賀線・300メートル離れて京葉線、さらに東京メトロ丸ノ内線と日本一過密な東京駅は1日105万人以上の利用客を擁していたがまだ冬の朝は遅く夜があけるためか静寂さを守っていた。
しかし、そろそろ九州からの寝台特急が到着する頃で今日も東京駅はまた活気を取り戻そうとしていた。

田崎の運転する電車が到着し、ドアが開くと
「昨日は東海道新幹線が雪のために大幅に遅れてご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」
と特別に放送していた。
京都の岸谷涼子もその一人だった。
涼子は高校時代の友人が結婚するので久しぶりに実家に帰り、友達の結婚式に出たのだが、その帰徒、例の大雪で新幹線に閉じこめられ朝帰りになってしまったのだった。
涼子の東京の家は池袋からさらに30分の大泉学園にあった。
「主人と子供はどうしているかしら、あの人は無きっちょうだからご飯たべたかしら」
と心配だった。

考えたあげくバッグから赤いケータイを取り出してなにはともあれと電源を押したが充電が切れていた。
「あたしってどうしてこうどじなんだ、もう」
低い声でつぶやいた。
電車は神田を過ぎ・秋葉原に止まった。
「秋葉原です、京浜東北線、総武線・つくば鉄道線・地下鉄日比谷線ご利用の方は当駅でお乗り換えです。」
田崎は運転席から秋葉原の街を眺めた。
「ここも変わったなあ、」

戦後ラジオの部品屋として発足した通称ジャンク街がTV・AVの発展と共に世界でも珍しい総合電気街に発展したのだった。
「3番線のドアが閉まります、次は御徒町に止まります」
ドアが閉まると田崎は
「御徒町延発2分」
「出発進行」
ここまできても品川駅延発はまだ取り返せなかった。

田崎は
「2分の延発、仕方がないよなあ」
と思った。
御徒町を過ぎて上野に到着した。
「上野です。東北線・常磐線・東北・上越・長野新幹線は当駅でお乗り換えです。
3番線の電車は当駅で時間調整のためにしばらく停車いたします」
上野駅から乗ってくる客は少なかった。
かって上野駅は田舎から上京してくる人の出世駅と云われていた。
急行「津軽」「十和田」など、東京への集団就職といわれた夜行列車は新幹線開業と共に消えてしまい、夜行列車はわずか北陸からの特急「北陸」だけという寂しさになってしまった。田崎はそんなことを考えていた.
上野駅の発車のサインはミュージックサイレンでなく、昔風のベルだった。かって国鉄時代は発車ベルだったが、山手線内はベルはなく、今では東京駅の東海道線の普通電車7,8番ホームと快速、遠距離電車特急寝台特急が発着する9番、10番線のベルを除いてほかの駅はソフトな特徴を持ったミュージックサイレンだった。

「お待たせしました。2番線のドアが閉まります」
ホームの頭上から女性の案内テープが流れてドアが閉まった。
田崎はマスコンレバーを強く引いた。
「速度60」
京浜東北線・山手線・高崎・東北線・常磐線と幾重にもレールが走っていて暗闇の中からヘッドライトを点けた電車が不意に近づいてきて賑やかになった。
電車は鶯谷・日暮里・西日暮里を過ぎて田端に着いた。
「2番線のドアが閉まります」
「田端2分延発」
田崎は喚呼しながら2分の遅れがまだ回復していないことにストレスを感じていた。

「池袋までなんとかしないとなあ」
低い声でつぶやきながら
「信号よおし」
「速度60」
田端から左にカーブすると下り坂になっていてすぐに駒込駅が見えてきた。
「駒込停車」
田崎は、停止位置にブレーキレバーを引いて電車を止めた。
数人の乗り降りがあり、辺りはようやく闇の帳から空が白みかけてきた。
電車は鶯谷・日暮里・西日暮里を過ぎて田端に着いた。「2番線のドアが閉まります」「田端2分延発」田崎は歓呼しながら2分の遅れがまだ回復していないことにストレスを感じていた。「池袋までなんとかしないとなあ」低い声でつぶやきながら「信号よおし」「速度60」田端から左にカーブすると下り坂になっていてすぐに駒込駅が見えてきた。 「駒込停車」
田崎は、停止位置にブレーキレバーを引いて電車を止めた。数人の乗り降りがあり、辺りはようやく闇の帳から空が白みかけてきた。対向の内回り電車も少しずつすれ違いが増えて来た。数人の乗り降りがあり、辺りはようやく闇の帳から空が白みかけてきた。

東京から乗った岸谷涼子は昨日の新幹線の大幅遅延で列車ホテルに変貌した車内でよく寝れなかったのか、可愛い寝息を立てて熟睡していたが、「次は、池袋です。埼京線、湘南新宿ライン、西武線・・・・・という車内の案内で目を覚まして、「いけない、乗り過ごすと主人に・・」と低くつぶやき、座席を立って眠そうな目をこすってあくびをしてドアに立つ。

「池袋、池袋ご乗車ありがとうございます、埼京線・湘南新宿ライン・西武線・東武東上線・地下鉄丸の内線・半蔵門線はお乗換えです。ご乗車ありがとうございました。岸谷涼子は、コートの襟を立てての左手の黒い手袋で赤いバッグを抱えるようにして「早く家に帰らないと」とつぶやくようにして西武線のホームに向かって階段を早足で下りて行った。

池袋駅は1日乗降客約160万人という新宿駅と肩を並べるマンモス駅なのだが、今は各ホームに明かりが点いて電車がホームに止まっていた。
2時間後には喧騒と悲鳴の起きることは想像もできない。
                                (未完)


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